F1 と同じようにサーフィンも進化した!?

今回、マクラーレンGTで訪ねたのは、湘南をベースに活躍するプロサーファーのジュリアン・ホプキンズさんと、鎌倉でサーフボード工房「OGMシェイプショップ」を営む日本でも指折りのサーフボードシェイパーの小川昌男さんだ。ジュリアンは、外資系投資会社に勤務するビジネスエグゼクティブでありながら、高校生の頃よりサーフィンに傾注し、2018年にはサーフィンのプロ試験をパスした。小川もかつてはプロのサーファーとして全日本で2位に輝いたこともある人だ。

プロサーファー ジュリアン・ホプキンズ
ウィークデイは外資系投資会社に勤務する異色のプロサーファー。生まれ。ニュージーランド人の父と日本人の母を持つ。中学生のときにハワイでサーフィンに出合い、2018年にはサーフィンのプロ試験をパス。現在は ロングボードツアーに参戦中。
サーフボードシェイパー 小川昌男
かつてはショートボードのプロサーファーとして国内外で活躍。全日本プロクラスで2位になるなど輝かしい戦績を残す。現在は「OGM シェイプショップ」を営み、シェイパーとして鎌倉を拠点に活動中。「サーフボードは扱いやすいものであるべき」という信念のもと、毎年400人ものサーファーにボードを作っている。

プロになったから、小川がシェイプするボードに乗っているというジュリアン。すでに50本程のボードを削ってもらったのだそうだ。小川が手掛けるボードの何に惹かれているのだろうか。

ジュリアン「小川さんのボードは、初めて乗ったときから、すごくスピードが出ると感じていました。それに取り回しもスムーズで、とにかく乗りやすいんです。例えば、ターンをしやすくするために後端の幅を狭めたタイプのボードがあるのですが、乗ってみるとターン性能はいいけれど他が犠牲になっていて、トータルではイマイチなことが多い。でも、小川さんがシェイプするOGMのボードはスピードに乗りやすく、しかも扱いやすいのが特長です」

ジュリアンが「スピードとコントロール性を兼ね備えている」という小川のボード。その秘密はどこにあるのだろうか?

小川「仮に、ジュリアンからもっとスピード重視のボードが欲しいというオーダーがあったとします。ボードはロッカーという前後方向の反りの度合いでも特性が変わるもので、反りを弱めてボトムをフラットなデザインに仕上げるとスピードが出やすくなります。ただ、その分ターンのときにフロント部分が水にひっかかる傾向があり、コントロール性は悪くなってしまう。サーフボードというのは、ある部分を立てると、他の3つくらいが犠牲になるくらいシビアなんです。だから、ジュリアンの言うことには耳を傾けるけれど、常に全体のバランスを見ながらデザインを仕上げています。場合によっては、ちょっと変えたフリをしながら(笑)。マクラーレンだって同じだと思うんです。グランプリマシンでも、今日のGTのようなロードカーでも、ある性能に特化させるのではなく、常に全体のバランスを考慮したデザインが重要ですよね」

例えば、セッティングが決まったレーシングカーは、速いうえに非常に乗りやすいという話をレーシングドライバーから聞くことがある。小川が手掛けたボードへのジュリアンの評価を耳にすると、サーフボードにも同様のことがいえるのかもしれない。それについて小川に質すと、興味深い答えが返ってきた。

小川「レーシングカーといえば、僕はアイルトン・セナやアラン・プロストが活躍していた’80年代のF1が大好きで、必ずテレビ中継を見ていました。あの頃のマクラーレンは、シャシーの完成度が非常に高く、極端な話どんなエンジンを積んでも、誰がドライブしても速かったと思います。もしかしたら、サーフボードにも同じことがいえるのかもしれません。ボードの場合、エンジン、つまり推進力はあくまで波ですが。それから、当時のマクラーレンのグランプリマシンはデザインの完成度も高くて、どこから見てもきれいでした」

ジュリアン「ボードの外枠の形状をアウトラインといいますが、そういう意味では小川さんのボードも癖がなくて、どこから見てもきれいな面で構成されていると思う。サーフィン仲間にも、乗りやすそうなボードだねってよく言われます」

GT—グランドツーリングの名にふさわしく、走りに風や大地を取り込むための機能に根差した究極的なデザインが施されている。

小川「今日のマクラーレンGTも同じですね。どこから見てもきれいなフォルムだし、たとえばエアインテークは決してデザインのためのギミックではなく、ラジエターの冷却や空力のために設けられたものじゃないですか。僕もシェイパーとして、常に機能に裏付けられた造形を意識してデザインしています」

F1とサーフィンの世界に革命をもたらした二人の天才

小川がF1に熱い視線を送っていた’80年代、一人のイギリス人天才エンジニア/デザイナーがF1 の世界に革命をもたらした。ご存知、エイドリアン・ニューウェイである。大学で航空工学を学んだ彼は、F1のシャシーデザインにエアロダイナミクスを本格的に導入し、グランプリマシンのデザインを革新したのだ。サーフィンの世界にも、同様に革新をもたらした人物がいるという。

小川「ディック・ブルーワーという、恐らく世界で最も有名なシェイパーです。彼は模型飛行機などをデザインしていたので流体力学の知見があり、それを基にサーフィンの世界に新しいデザインを取り入れました。例えば、サーフボードのボトムはそれまであまり意識されてこなかったのですが、彼はVボトムという、ボトムが中央に向かって縦方向にやや出っ張っていくタイプのボードをデザインしました。実際、大きな波に乗るときには、Vボトムを採用すると水圧をボードの左右にきれいに逃がすことができ、コントロール性が高まるんです。大波に乗る際に非常に有効なデザインで、これを彼が手掛けると、他のシェイパーもみな同じようなデザインを採用するようになり、瞬く間にVボトムは広まっていきました。世界的に影響を与えた著名なシェイパーです」

かく言う小川も、大学で理系を専攻していたこともあり、ボードをデザインする際にはディック・ブルーワーのごとく常に流体力学を意識しているという。まさに、機能に裏打ちされたデザインというわけだ。

30年以上にわたって培ってきた緻密な計算と大胆な発想が同居するノウハウで、一人ひとりのサーファーのために生み出される小川のサーフボード。電動ブレーナーで素材となるポリウレタンを削りだしていく。
小川が若かりし頃使っていたというマールボロカラーのサーフボード。

ところで、島国である日本には、千葉や茨城をはじめ全国各地に素晴らしいサーフスポットが存在する。なぜ、彼らは湘南をベースに活動しているのだろうか? それは、湘南の海では日数は限られるが、日本でも有数のクオリティの高い波が立つからだと、二人は口を揃える。

ジュリアン「サーフィンの世界にはマシンブレイクという言葉があります。まるで機械で作ったようにきれいな波が繰り返し立つことを意味するのですが、七里ヶ浜や稲村ヶ崎は海底が岩盤で、砂地のように形状が変化しないので、けっこうパワーのある波がきれいに割れるスポットがあるんです。ライダーとしてそこに大きな魅力を感じています」

小川「僕は今でもサーフィンを楽しんでいて、基本的にはたとえ波がなくても沖に浮かんで海を眺めているだけで幸せなんです。同じ波が来なくて自分の思い通りにならなくても、逆に自分の小ささや自然の偉大さが感じられたり。でも、かつてプロサーファーとして世界各地の波に乗ってきた経験からすると、特に稲村ヶ崎は、恐らく日本でも三指に数えられる素晴らしいサーフポイントだと思います。海底の地形がいい上に、左右から房総半島と伊豆半島がせり出し、正面には大島があります。間口が狭いので、そこを通り抜けて到達する波は、整流されてだいたい同じようなうねり方をする傾向があるんです」

シェイパーである小川にとって、一定の波が立つことのメリットはとても大きいと続ける。

小川「クルマにとってのテストコースのようなもので、ボードを評価しやすいんです。例えば、新しいデザインを試したいときに、波が安定していると正確なフィードバックを得ることができます」

ジュリアン「それはライダーにとっても同じです。波が比較的一定だからボードの特徴を掴みやすいし、とても効率的にテストができます」

こうした彼らのやりとりを聞いていると、サーファーとシェイパーの関係性が、レーシングドライバーとエンジニアのそれに近いことが分かる。そんな彼らにとって湘南の海は、世界中のカーメーカーが開発テストを行うドイツのニュルブルクリンクのような存在なのかもしれない。

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では、彼らがそれぞれの立場で戦うサーフィン競技とは、いったいどのようなものなのか。日本におけるプロトーナメントであるJPSA(Japan Pro Surfing Association) 公認のプロサーフィンツアーは年に6大会ほど開催され、ジュリアンもこのツアーに参戦しているという。湘南や千葉をはじめとする全国のサーフスポットを舞台とし、大会によってはバリやベトナムなどの海外で開催されることもある同トーナメント。勝敗は、各ヒートごとのライディングをジャッジが採点し、高得点を獲得した選手がトーナメントを勝ち抜く。ちなみに、ジュリアンが参戦しているのは、「ロングボードツアー」というカテゴリーだ。

「サーフィンは鳥が空を飛ぶ感覚に近い気がしますね。僕はしっかり体重を活かし、スムーズな流れの中で技を繋いでいくライディングスタイルを意識しています」とジュリアン。

ジュリアン「以前はロングボードもショートボードと同じように、いかに俊敏でトリッキーなライディングができるかが高得点を獲得するポイントでしたが、ここ数年でトレンドが変わって、最近はロングボードならではの優雅なライディングがジャッジに評価されるようになっています」

その意味で、ロングボードに関しては、機敏な動きがしやすいコンパクトなボードよりも、優雅なライドに向く、ゆったりとしたサイズのものがトレンドだという。    

一方ショートボードについては、ターンやエアリアルなど、昨今はより“攻撃的”なライディングが高得点を獲得できる傾向があり、ボードも呼応するように、より“小さく薄く”というのがトレンドだという。

小川「レーシングカーがレギュレーションのギリギリまで軽量化を図るのと同様、俊敏性を求めてサーフボードを極力コンパクトにするのがショートボードの流れです。ただ、そうするとボード自体の揚力が足りなくなる。先ほどディック・ブルーワーが開発したVボトムの話をしましたが、それとは逆にボトムのセンターを凹ませることで波を捉えやすくしてより大きな揚力を得るコンケープというボトムのデザインが、いまはショートボードのトレンドで、僕が手掛けるOGMのボードも基本的にはコンケープのデザインがベースになっています」

サーフィンと同じくらいクルマが好きというジュリアン。マクラーレンGTの450ℓと大容量のラゲッジスペースにはOMGのサーフボードが載ってしまうから驚きだ。

ジュリアン「マクラーレンに例えると、ショートボードが720Sや600LTといったサーキット由来のモデルで、ロングボードはマクラーレンが“ニューグランドツアラー”と謳うGTに近いのかもしれません。とはいえ、先ほどGTに試乗したのですが、ステアリングやアクセル、ブレーキに遊びが少なく、操作に対してクルマがすごく繊細に反応してくれるので、マクラーレンがつくると、GTですらグランドツアラーでありながら、十分に“刺激的”なスポーツカーになるのだと思いました」

最後に、クルマと同様に進化し続けてきたサーフィンは、次はどのような進化を遂げるのか、聞いてみた。

小川「例えば3Dプリンターでボードが作れるようになると、従来にない素材や構造を用いることが可能で、サーフィンの世界に新たな革新が起きるかもしれないと思っています」

仮に3Dプリンターによるボード作りが現実のものとなっても、ドライバーとエンジニアのごときジュリアンと小川の信頼関係は、これからもずっと続いていくことだろう。

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グランドツアラーを意味する「GT」という車名の通り、自動車旅行をイメージしたスーパースポーツ。ドライバー背後の容量420ℓのラゲッジスペースには、185cmのスキー板とブーツを2セット、あるいはゴルフバッグ2つを積載することが可能で、フラットな乗り心地のおかげで長距離移動も快適だ。ただし、もちろんのんびりと旅をするためのモデルではなく、ミドシップされる4ℓのV型8気筒ツインターボエンジンの最高出力は620ps。最高速度326km/hと、0-100km/h加速3.2秒という、圧巻のパフォーマンスを発揮する。つまり、超高速でコンフォタブルに移動する、新しいタイプのグランドツアラーなのだ。

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